第2回 ECデータ活用の流れと分析手法
この連載コラムでは、ECを運営する企業が、ECシステムに蓄積されたデータを活用するための分析テクニックを全7回にわたって解説します。
第2回の今回は、飲料を扱うお店のサイトを例に、ECデータの活用例と実際にどのようなデータ分析が可能なのか、ECデータ活用に使われる分析手法について解説します。
ECデータは、実際のビジネスの現場ではどのように活用されているのでしょうか。今回はECビジネスを行なっている仮想企業を想定して、データの活用場面をシミュレーションしてみましょう。
想定するECサイトは、オープンして4年目のリカーショップです。洋酒、日本酒、焼酎、ビールなど酒類全般を取り扱い、初回購入時には簡単なプロフィールとアンケートに回答してから会員登録することがルールになっています。オープン4年目の現在は、のべ約5万人の会員数がいます。
このようなECサイトを前提に、ECデータの活用例をPDCAサイクルに沿って見ていきましょう。
PDCAとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善)の略であり、ある計画を立ててそれを実行し、その効果を検証後、さらなる改善策を見出すというマネジメント手法の1つです。
新たな改善策や課題に対処するため、再度、最初の計画フェーズへ移り、実行、検証フェーズを繰り返します。このように継続的に改善を繰り返す一連のサイクルをPDCAサイクルと呼びます。
それではさっそく、ECデータの活用例をPlanフェーズから見ていきましょう。
2019年夏、例年どおりビールの売上は好調でした。ビール以外を含めたサイト全体の売上も増加傾向を示しており、状況としては安泰です。しかし、季節は冬を迎えようとしています。過去の実績では、冬のビール売上は予想以上に大きく落ち込む傾向にあります。冷たい喉ごしや清涼感は夏にぴったりですが、冬になると見込みほど売れなくなるのが問題でした。
そこで、冬のビール売上につながるヒントを、ECデータを使った売上分析を行なうことで探ってみることにします。すると、ある傾向をつかむことができました。それは国産と外国産ビールの売上を季節ごとに比較してみると、外国産は冬でもほとんど売上が変わらないということでした。
季節ごとの売上金額の推移
一方、外国産に比べて国産ビールは夏季と冬季で売上の差が大きく、夏季の売上が圧倒的に高い傾向にありました。理由として考えられるのは、外国産ビールの場合、種類が豊富で味の幅も広く、寒い時期でもおいしいと感じられる銘柄が多くあることから冬でも愛飲されるのではないかということです。外国産ビールをもっと多くの人に買ってもらい、その魅力を知ってもらえれば、冬のビール売上の落ち込みを緩和できるのではないか、ということで「2019年の冬はもっともっとビールを売ろう!」という計画が立てられました。
そこでサイトでは、冬に向けて外国産ビールのセールスキャンペーンを打つことにしました。キャンペーンの内容は、サイト内に冬季期間中の外国産ビール割引キャンペーンを告知するのと同時に、購入確度の高い顧客セグメントに対してセールスキャンペーンのお知らせメールを送るというものです。
購入確度の高い顧客セグメントとしては、会員登録時に、よく飲むアルコールにビールと答えた顧客と、3カ月以内に外国産ビールを一度でも購入した顧客の2つのグループを想定し、この顧客セグメントに属する顧客の年齢と性別を、ECデータを使って分析してみることにしました。すると30代、40代の男性が圧倒的に多いことが分かりました。
年代/性別による顧客数
30代、40代の男性は、そもそもこのサイトが主要ターゲットとしている顧客層であり、冬に外国産ビールを買ってくれそうな顧客としては十分に期待できる顧客セグメントであると判断できます。
キャンペーンメールの送付先アドレスは、ECデータ分析システムのドリルスルー機能を利用して取得します。ドリルスルー機能とは、分析画面に表示された数値データから、その元となる明細を抽出し、メールアドレスなどの詳細な属性データのリストを得る機能です。
ドリルスルー機能
年が明けて2020年春、外国産ビールのキャンペーン結果を分析するため、eコマースBIの画面を使って検証を行ないました。この場合よく使われるのが、前年同月との売上比較です。この結果を見る限り、見事に外国産ビールの伸びが見られ、ビール全体の冬季売上落ち込みが緩和されていることが分かります。つまり、このキャンペーンは十分効果があったと評価できます。
前年同月との売上比較
では実際に、キャンペーンに反応して外国産ビールを買い、冬のビール売上に貢献したのはどんな顧客だったのでしょうか。キャンペーンメールを多く送った30代、40代の男性だったのかどうか、検証してみましょう。この場合、時間軸は冬季11月から翌年3月に、売上商品は外国産ビールに限り、その購入者の年齢/性別を見ることにします。30代、40代の男性が多いのは予想どおりですが、見逃せないのは30代女性のシェアの多さです。
年代/性別による購入顧客数
よく飲むアルコールにビールと回答した女性は、これまでとは違う味わいを求めて外国産ビールのキャンペーンに反応し、さらに3カ月以内に一度でも外国産ビールを購入したことのあった女性に関しては、その味を気に入っていた、という新たな仮説が見えてきました。
このキャンペーンを実施して、それまで落ち込んでいた冬のビール売上を、外国産ビールをプッシュすることでかなり解決できることが分かりました。実は冬の期間はクリスマスや忘年会、お正月などイベントも多く、そういった席でお酒のバリエーションを増やすのに外国産ビールはちょうど良いと思われます。
そこでこのサイトでは冬季期間中、よく飲むアルコールにビールと回答した顧客に限り、ログインして最初に目にするトップ画面に外国産ビールを多く紹介することにしました。目にする機会が増えれば、当然、顧客の購入選択肢に挙がる確率も高くなると考えたわけです。また、女性に対しては、冬の外国産ビールセールスキャンペーンを引き続き行なうことにしました。つまり、新たなターゲットに対するPDCAサイクルの始まりです。冬のビール売上が毎年コンスタントに見込みまで確保できれば、サイトの今後の成長も期待できるでしょう。
リカーショップを例に実際の活用例を見ていただきました。ECデータがどのように利用され、ビジネスに応用されているかという具体的なイメージを持っていただけたでしょうか。
次に、ECデータ活用で使用されるさまざまな分析手法について、それぞれの概要を説明します。ECデータ活用で使用される主な分析手法には次の5つがあります。
これら5つの分析手法のうち、1.顧客分析と2.売上分析で使用されるデータは、ほとんどすべてのECサイトで収集可能です。したがって、これら2つの分析を最初に実施するのが一般的な分析の手順になります。
残りの3.クリック分析、4.ナレッジ分析、5.マーケティング分析で使用されるデータは、サイトによっては収集できない場合や、ECサイトの改変が必要な場合があります。したがって、これら3つの分析については、サイトの性質やビジネス上の課題に応じて組み合わせて使用します。これら5つの分析手法の位置づけと関係をまとめたものが次の図になります。
ECデータ活用における標準的な分析の流れ
今回は、リカーショップのサイトを例に、ECデータの活用例と実際にどのようなデータ分析が可能なのか、ECデータ活用に使われる5つの分析手法について解説しました。次回からは、5つの分析手法を一つずつ順番に詳しく解説していきます。
本Webサイトではこの他にも様々なデータ活用のテクニックをご紹介しています。ぜひご覧ください!
分析レポート・帳票作成の効率化、部門や会社、グループを超えた大規模なレポート共有にお悩みはありませんか?