第1回 ECデータの種類とその構成
この連載コラムでは、ECを運営する企業が、ECシステムに蓄積されたデータを活用するための分析テクニックを全7回にわたって解説します。
第1回の今回は、データ分析の対象となるECデータにはどのようなものがあるのか、それぞれのデータにはどのような特徴があるのかについて解説します。
まず、ECシステムで管理されているデータのうち、基本的なデータは次の3つになります。
1.プロファイルデータ (顧客属性データ)
ECサイトで販売されている商品の管理データ。取扱商品が多岐にわたる場合は、階層構造(例えば、商品大分類/中分類/小分類)を持つケースが多い。2.販売データ
顧客が実施した購買に関する履歴データ。一般的な販売データとは異なり、ECシステムでは、それぞれの購買記録について誰が購入したかを特定できる。3.商品マスタ
ECサイトで販売されている商品の管理データ。取扱商品が多岐にわたる場合は、階層構造(例えば、商品大分類/中分類/小分類)を持つケースが多い。※簡単な商品マスタの例
商品CD | 商品分類 | 品名 | 仕入れ先CD | 単価 |
---|---|---|---|---|
0001 | ミネラルウォーター | おいしい水 | YMBK01 | 200 |
0002 | 炭酸飲料 | 炭酸水 | KGNE02 | 300 |
0003 | 果実・野菜 | ミックスジュース | MNAM03 | 350 |
これらの基本データがあれば、ECデータ分析として、ある程度のデータ分析を行なうことができます。
たとえば、
といったことが把握できるだけでなく、
といったことも把握することができます。
これらの基本データは、ECシステムを導入/運用した場合に、特別意識しなくてもECデータ分析で利用可能になりますが、プロファイルデータの管理には十分注意すべきでしょう。
ECシステム側のプロファイルデータは、履歴データを持たないのが一般的です。というのも、顧客のプロファイルデータは最新の情報のみが必須であり、履歴を持つ必要性が低いためです。また、履歴を持とうとするとシステムが若干複雑になるという理由もあります。しかし、正確な分析を行なうためには、プロファイルの履歴情報が必要になってきます。
プロファイルデータを履歴管理すべき理由、それはユーザープロファイルに変更があった場合も過去に遡って分析データが書き換わってしまい、結果として誤った分析判断を導いてしまうからです。
具体例を見てみましょう。
Aさんはあるショッピングサイトに登録し、4月に1度そのサイトから購入をしました。そして、6月1日に誕生日を迎え、30歳になった後に再度同じサイトから商品を購入しました。
この場合、本来であれば4月にショッピングサイトで商品を購入した時は20代、そして6月以降の購入分は30代のデータとしてカウントされる必要があります。
一方、プロファイルデータが履歴管理されていないと場合はどうなるでしょうか。
Aさんが4月に1回、6月に1回ショッピングサイトから購入したことは変わりませんが、6月に誕生日を迎えた後、Aさんのプロファイルデータは最新の30代に変更されます。
そして、履歴は最新のもののみが残っているため過去の4月に購入した際の情報も、データ上は30代のAさんが購入したものとして分析されてしまうといったような、実際とのズレが発生することになります。
履歴管理する場合としない場合の違い
基本データ以外にも、ECデータ分析で利用可能なデータはいくつかあります。
その1つがログデータです。ログデータは、一般的には「ログ解析」と呼ばれる、「いつどのページが見られたか」という情報を得るためのデータ分析に利用されるものです。
一方、ECデータ分析では「どのユーザーがどのページをクリックしたか」という情報を得るためにログデータを利用します。ログ解析とECデータ分析でのログデータ分析の違いについては後ほど説明します。
ログデータのECデータ分析での利用にあたっては、いくつか注意点があります。
1 膨大なアクセスログへの対策
基本的にログは1クリックごとに生成されるため、アクセスユーザー数が多いサイトでは膨大なアクセスログが生成されることになります。ログデータが膨大になる場合の対策としては、ログイン状況や特定バナー押下のログのみを取るというような制限を設けたり、もしくはECデータ分析システムにデータを渡した時点でECシステム側のログを消去するなどの対応策が必要になります。
2 利用を見越したログデータの加工処理
もう1つ注意しなければならないのは、ログデータは単純なテキスト形式で管理されていることが多いという点です。
つまり、ログデータを分析側で単純に取り込んだとしても、すぐには利用できる状態になっていないということです。ログデータがどのように生成/管理されているかを把握し、すぐに利用できる状態のデータに加工処理を行なう必要があります。
ログデータを使用したデータ分析という点では、ログ解析とECデータ分析は一見似ていますが、内容的には大きな違いがあります。
【ポイント】
サイト/コンテンツにフォーカスを当てた分析を行う。
コンテンツ管理者やシステム管理者にとっては有益な情報が多い。
【ポイント】
会員ユーザをセグメンテーションした上で、コンテンツ(商品)と様々なクロス分析を行う。
顧客の視点でデータの分析が可能なため、顧客別の潜在ニーズ、嗜好、行動(購買)プロセスの把握ができる。
ログ解析…コンテンツ管理やサーバー不可の把握が中心
ログ解析では、Webサーバーが収集するECサイト上のクリックデータのみを使用するため、個人の特定は行なわれないのが特徴です。結果として、主な分析の目的は「どのページがよく見られているか?」といったコンテンツ管理や「ユーザーが多く訪問する日/時間帯はいつか?」などのサーバー負荷の把握になります。
したがって、ログ解析に使用するログ解析ツールの機能としては、Webサーバーを通してユーザーの動作(クリック情報)を記録し、ユーザーが利用しているIPアドレス/アクセスした日時/ページ遷移情報(どのような足取りでページを見たか)のほかに、ユーザーのWebブラウザのバージョンなどを把握するようなものが多くなります。
ECデータ分析…顧客データと組み合わせたビジネス的な判断
一方、ECデータ分析は、さまざまなデータをあらかじめ定義したモデルに基づき分析し、そこからビジネス的な判断を行なうことを目的とします。したがって、クリックデータだけでなく、プロファイルと組み合わせて利用することになります。これにより、特定の商品が購入されたのは、どのような年齢帯や性別のユーザー層なのかといった、顧客を特定した分析が可能になります。
プロファイル以外にも、ポイントやキャンペーンといった別のデータもその組み合わせには含まれます。顧客分析、商品購買分析といった複雑な分析を行ない、キャンペーンの評価や商品販売構成の見直しといったビジネス的な戦略策定をすることもできます。
キャンペーン(Campaign)とは、もともと「不特定多数の人に対して、一定の目的をもって、各種の組織的な運動や働きかけをすること」という意味ですが、ECにおいては、EC管理者がバナーや電子メール、プッシュ通知などを通じて、顧客に対して商品の宣伝をはじめとするさまざまな情報の提供を行なうことを意味します。
キャンペーンを実施する主な目的は、
1.イベントによる売上拡大(例:スプリングセール)
2.マーケティングによる商品認知度の向上(例:新商品お試し価格)
になります。
一方、キャンペーンを実施する主な方法は、以下の2つになります。
1.サイト内にキャンペーンバナーを設けて実施する
2.バナーに加えて電子メールを併用する
ECでの利用を考慮すると、キャンペーンに関連するデータとしては、
・キャンペーン種別(キャンペーンの種類)
・キャンペーン実施期間
・キャンペーン内容(商品)
といったマスタデータのほか、
・キャンペーン実績(キャンペーンとして売れた商品)
・キャンペーン反応情報(キャンペーンの情報を閲覧した)
といったキャンペーンの実施に伴って蓄積されるデータ(トランザクションデータ)が管理されていることが理想です。
これらのデータが揃っていれば、eコマースサイトの活性化の評価(例:送信した電子メールがどの程度効果があったか)といった高度な分析が可能になります。
今回は、データ分析の対象となるECデータにはどのようなものがあるのか(基本データ、ログデータ、キャンペーン管理データなど)、それぞれのデータにはどのような特徴があるのかについて解説しました。
次回は、ECデータ活用のPDCAサイクルを「冬にビールを売ろう」キャンペーンを例にとって解説します。