【コラム】 6.コラボレーションツールの選択基準


 

これまで見てきたように、テレビ会議/Web会議システムは、社会のさまざまなシーンで幅広く活用されるツールに進化してきたことがご理解いただけたのではないかと思います。
さて、この章では、ここのテーマとなっているWeb会議システムを導入する上で理解しておくべき基本項目について紹介いたします。

 

コラボレーションツールといえば、代表的なのは、テレビ会議システムとWeb会議システムです。テレビ会議システムは、それ専用として開発・設計・製造された専用端末の“装置”です。一方、Web会議システムはパソコンのOSで動作する“ソフトウェア”となります。すでに第1章で説明したとおり、映像・音声・データを交えたオンラインミーティングを実現するツールという意味では両者は同じ機能を提供していますが、製品としての提供方法に違いがあります。

 

基本的にはこの違いで、テレビ会議システムとWeb会議システムと呼び分けています。ただし、メーカによっては、この定義からするとWeb会議システムにもかかわらず、テレビ会議システムと呼んでいるところもあります。ユーザから見てその方がわかりやすいという意図があるのだと思います。

 

では、そもそもなぜWeb会議システムはWeb会議システムという名称なのかというその理由を辿ると90年代のインターネット黎明期にさかのぼる必要があります。紙面の関係で詳細は割愛しますが、そもそも電話会議向けの資料共有機能として登場し、当時(北米)は、”Presentation On the Web browser”などと呼ばれていたのがWeb会議システムの走りです。そこからWebを取ってWeb会議システムという呼称が誕生したのでしょう。そして、インターネットが普及するにつれ、資料共有に映像や音声が付き、今のテレビ会議とは似て非なるWeb会議システムになったといえます。

 

それでは、Web会議システムの基本機能を見ていきましょう。
繰り返しますが、Web会議システムは、映像と音声、そしてデータ共有を主な要素としたオンラインミーティングツールです。パソコンに保存されている資料(後述のファイルやアプリケーションなど)を一緒に見ながら、映像と音声を使った遠隔地とオンラインの会議が行えるものです。

 

データ共有では、パソコンの、「デスクトップ画面(Adobe Connect:スクリーン画面)」「アプリケーション」「ファイル」の3つの対象物をそれぞれ別々に共有できるようになっています。パソコンのデスクトップ画面全体をそのまま共有することができるほか、Adobe AcrobatやMicrosoft Officeなどのアプリケーション自体を相手と共有し、そのアプリケーション上で共同作業が行えます。あるいはすでに作成した特定のファイル、たとえば、Wordであれば書き込みや編集作業を遠隔地の人と一緒におこなえます。あるいは、Excelのセルに書き込んだりしてグラフを一緒に作成したりということもできます。研修やトレーニング用の動画(映像やアニメーションなど)を共有したり、開発現場であればCADデータを共有したりすることもできます。

 

また、Web会議ならではの機能として「ホワイトボード」があります。こちらも前述のデータ共有の一部に位置づけられるものですが、会議室のホワイトボードをイメージするとわかりやすいかもしれません。Web会議中にホワイトボード機能をスタートすると、まっさらの白い画面が現れそこで共同作業が行えるようになっています。その白い領域に、実際の会議さながら、自由に描写(“アノテーション”と呼ぶ)や写真の貼り付けなどをしながらWeb会議参加者同士のアイデアの共有が行えます。

 

これらの各種共有機能は、相手の何を共有したいのかという目的に応じてそれらを使い分けます。セキュリティもしくはプライバシーで使い分ける考え方もあります。

 

以上のところが、Web会議にとって根幹となる機能となります。これらの他に、参加者同士で文字による会話を行う「チャット」、Web会議の会議の様子を録画・編集したりする「録画・編集」、参加者の意見などを取りまとめたりするための「投票・Q&A」といった共有作業に対しての支援機能もあります。

 

チャットは、参加者間同士の映像と音声による会話の補助的な機能です。チャットの内容は他の参加者に対してパブリック(公開)あるいはプライベート(非公開)の使い分けができます。録画・編集は、Web会議中の様子を収録し会議後の議事録としての活用ができます。投票・Q&Aは、参加者への質問をその場で作成して即座に回答してもらったり、その結果をグラフなどでリアルタイムに集計したりすることもできるようになっています。

 

これらの機能はとくにウェビナーでは便利で、発表者に対する質問をチャットで受け付けて、その後で、発表者が口頭で回答するといったことがよく見られます。また、投票・Q&Aでは、多数の参加者の意向をその場で取りまとめることが可能なため、発表者と参加者との間でインタラクティブなやり取りを促進し、より効果的なプレゼンテーションが可能になります。また録画・編集では、参加できなかった人向けにもオンディマンド配信ができます。

 

以上のところが、Web会議システムの機能の基本的な理解の枠組みとなります。どのメーカのWeb会議も基本的には同じような機能を提供していますが、ユーザインターフェイスのデザインの違いがあったり、用途に応じたバリエーションを提供していたり、後述のライセンスや導入(オンプレミス/クラウド)、保守・サポートといった点でさまざまなWeb会議システムが市場では見られます。

 

Web会議システムを導入する際には2つの方法があります。ひとつは、「オンプレミス」といって、社内にWeb会議サーバやクライアント一式を社内のネットワークに設置する方法です。また、もう一つは、「クラウドサービス」で提供しているWeb会議を使用する方法です。そこにメーカや販売会社によるサポートが付く形になります。

 

固定資産として持つかそれとも月額費用で使うかの判断の分かれ目ですが、コスト・予算、セキュリティ、外部との利用といった観点から、オンプレミスにするか、それともクラウドサービスを採用するかを検討することが多いかと思います。

 

社内会議でもクラウド型Web会議を採用しているところもありますが、たとえば金融業界での採用は情報漏えいの観点からオンプレミスでの採用が多いと言われています。あるいは、利用頻度が高いため、コスト的にオンプレミスの方がペイするということでクラウドを見送ったユーザ企業もあります。また、トライアルでWeb会議を利用してみたい、取引先とのWeb会議を考えているといった向きではクラウドで採用しているようです。

 

このあたりはユーザごとに区々の問題ですので、一概にオンプレミスが良いとかクラウドが良いとは言えません。出来れば導入前の検討時にメーカや販売会社を交えた検討をなされるのがお勧めです。加えて、保守やサポートはしっかりとしたところを選んだほうが良いです。特にWeb会議システムはネットワークと不可分の関係ですので、障害時の切り分けを考えるとワンストップがベストです。

 

Web会議システムもテレビ会議システムも、物理的に往来できない遠隔地の参加者との間に、実際の会議をバーチャルにあたかもそこに存在するかのように再現することを目的としています。実際に会えればいいのですが会えないためバーチャルな会議をそこに仮想的に作るわけです。Web会議において提供されている各種機能は、できる限りリアルな会議をレプリケート(複製)するためのものです。

 

たとえば、映像や音声は会議の参加者の目や耳や口の代わりですし、ホワイトボード機能は会議室のホワイトボードを見立てていますし、共有機能は、会議室のテーブルに資料を広げて参加者でそれを基に議論することをイミテートしています。チャットは隣の人と小声で話すためのものともいえます。投票・Q&Aは、挙手・賛成/反対を諮るためのものともいえます。

 

もちろん技術的にまだまだリアリティに迫るところまではいかないかもしれませんが、しかし最近のWeb会議はAdobe Connectも含めかなり快適に遠隔地の人たちと会議やウェビナーなどが行えるようになってきています。この十数年を振り返っても確実に技術進化しています。会議用、ウェビナー用、セールス向け、テクニカルサポート向け、などさまざまなバリエーションも市場では提供されていますので、用途に応じて検討されてみてはいかがでしょうか。

 

次章では、導入効果の考え方や測定、社内利用促進の方法についてヒントをご紹介させていただきます。