【コラム】 2.コラボレーションツール(遠隔会議システム)を取り巻く環境

ここでは、コラボレーションツール市場がなぜこれまでないほどに活況を呈しているのか、遠隔会議関連の技術(製品・サービスを含む)トレンドと社会の動きの2つの観点から説明します。


 

過去を振り返る80年代から90年代、「遠隔会議システムはこれから急速に普及していく」と何度も言われた時期がありました。人と人とのコミュニケーションを支えるという意味では、遠隔会議システムが果たす役割についてポテンシャルはかなり大きいのですが、これまでは技術的な環境が整っていませんでしたし、遠隔会議システムに対する認識もあまり浸透していませんでした。

 

転換点となったのが、インターネットの普及です。インターネットが普及する前は、ISDN回線(64kbps/128kbps)がテレビ会議システムに用いられていました。 しかし、今のようにハイビジョンなどの高品質映像を送受信するには帯域が十分ではありませんでした。もちろん、その狭帯域回線に通るレベルの画質(CIFなど)まで落として送受信しますので、映像の品質は荒くなり相手の表情は明瞭ではなく、それによって“使えない”ツールと評価されることも多々ありました。

 

しかし、ADSLや光回線(数Mbps)といったブロードバンドの普及が状況を変えました。youtubeなどの映像配信でご存知のように視聴時の映像品質についてハイビジョンも可能になってきました。映像を高品質で送受信するためには広帯域が必要だからです。


ネットワーク回線の進化
ISDN(64kbps/128kbps)
ADSL
光回線
3G、LTE

 

並行してテレビ会議システムとして使う専用端末やWeb会議システムをインストールしたパソコンの処理能力(CPUなど)が格段に進化することで、ハイビジョンなどの高品質でのミーティングが可能なりました。
ネットワーク回線と端末の進化の結果、今の高品質な映像・音声・データ共有をテレビ会議/Web会議システムで実現しているわけです。

 

加えて、端末の性能向上やソフトウェアの進化は、端末の多様化も促しました。スマートフォンでのテレビ会議/Web会議から大掛かりなテレプレゼンスまで、ハイエンドからローエンドまで実にさまざまな端末が提供されるようになりました。近年、高性能なスマートフォンやタブレットでのテレビ会議/Web会議も行えるようになりました。
そこにクラウドの普及も相重なって、大企業から中小・フリーランスまで組織の大小を問わず、コストや利用目的に応じて、さまざまな製品やサービスを選択できる時代になりました。技術レベルはビジネス要求に十分に対応できるところまで成熟してきたと言えます。

 

試聴端末、周辺機器、クラウド技術の進化
試聴端末の能力アップ
周辺機器(スピーカ、マイク、ヘッドセット)の能力アップ
専用端末、スマホ端末、タブレット端末の多様化
クラウド技術の進化

 

一方、社会環境の変化も遠隔会議システム普及の後押しをしています。
潮目が変わったのは、2011年の震災以降といえるでしょう。まずは遠隔会議システムが、震災時においてBCP(事業継続計画)ツールとしても認識が広がってきたということがあげられます。政府・地方自治体では、連絡・報告・会議の手段としての遠隔会議システムを幅広く導入・活用し、会議にとどまらず災害訓練を実施したりもしています。民間においても会議用途とともにBCP対策の一環で本社と営業所などをテレビ会議/Web会議で結んでいる企業が増えています。

 

加えて、介護や育児などのワークライフバランスや、遠方の優秀な社員の確保を目的としたテレワークの活用も広がっています。多様な働き方改革の一環で、総務省や経済産業省、厚生労働省、国土交通省など各省がテレワークの普及促進のための活動をおこなっています。

 

遠隔医療の方面でも前進が見られています。政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2015」に遠隔医療の推進を盛り込んでいます。これは日本経済再生の一環としてICTを活用した遠隔医療の実現を目指したものです。これにあわせて長年懸案となっていた遠隔医療時の診療報酬の問題について、2016年11月、経済産業省は、対面と同水準を検討するなど制度の見直しを進める方針を発表しています。テレビ会議/Web会議を使った遠隔医療への道筋がようやく見えてきた状況です。

 

社会の動き 内容
テレワーク 介護や育児、優秀な社員の確保、BCP目的などの活用進む
遠隔医療

経済産業省、診療報酬について対面と同水準の検討を開始

遠隔講義単位習得 大学や高等学校における授業において単位取得が可能
薬ネット販売 薬事監視を確実に行える仕組みとしてTV会議Web会議設置義務化
その他 塾や通訳サービスなど新たなビジネスモデル

 

文部科学省は、2014年に「高等学校における遠隔教育の在り方に関する検討会議」を開催し、それを踏まえて、全日制・定時制課程の高等学校におけるテレビ会議を使った遠隔教育による単位取得を可能にしました。小中高から大学までこれまで他学校との交流や遠隔研修(専門家などからの講義)などを目的としたテレビ会議/Web会議は多数実施されてきていますが、高等学校でテレビ会議/Web会議を使った授業で単位取得を可能にしたのは初めてといえるでしょう。 これを弾みに、eラーニングといった教育機関での遠隔会議システムの活用は今後増えていくことが期待されています。

 

厚生労働省の薬ネット販売の規制原案(2013年)で販売時におけるテレビ電話の義務付けも規定されました。店舗が閉店の時にネット販売を行う場合、テレビ電話の設置など薬事監視を確実に行える仕組みを整備することとなっています。

 

以上の他にも遠隔会議システムの可能性を後押しする動きが社会の各所に見られます。ポイントは、テレビ会議/Web会議システムといった映像コミュニケーションが社会において、“使える”ツールだという認識が広がってきたということです。と同時に、塾や通訳サービスなど自社のビジネスモデルにテレビ会議/Web会議システムを組み合わせるといった事例も増えてきています。さらに、こういった社会の動きに影響を受けて、市場では、関連の製品やサービスを開発・提供するビックプレイヤーからスタートアップまでが市場に参入していて、その数は年々増えつづけています。


社会全般でテレビ会議/Web会議システムに対する期待感が高まっていると言えます。